絵画科日本画専攻における教育研究は、現代絵画としての創造性の追求と同時に、わが国美術の伝統技術・精神を継承し、これを発展させることを主軸に据えています。
これは1887(明治20)年、本学の前身である東京美術学校創立時から一貫した理念であると同時に、現代を生きる作家、また美術教育に携わる者として常に意を払う命題と考えています。そして、この『伝統を基盤とした現代絵画の創造』という命題こそが、現代絵画のなかにあって、様々な要素を内包しつつも一定の独自性を貫く「日本画」という一領域を確立し、多くのすぐれた作家・研究者を輩出するにいたる根幹となっています。
また、今日では、人々の価値観や生活スタイルの変化に伴い、美術のみならず日本を取巻く環境は地球規模で大きく変化しています。この国際的な変革期のなか、「日本画」を支え、成り立たせてきた素材や美意識が、どのように生み出されてきたかを理解し、「日本画」の今後を担う問題意識と意欲をもちつつ現代的な絵画表現を研究する若い作家、研究者を育成することが本学絵画科日本画専攻に課せられた使命であり、理念でもあると考えています。そして、このような自国の伝統文化への深い理解と考察は、同時に表現に対する真摯な問いかけでもあり、真の国際化に向けての第一歩であると考えています。
学部教育では、日本画の基本的な技法を通して材料の理解と造型感覚とを体得させ、作家として創造活動ができるような能力を養うこと、及び美術にかかわる諸分野での指導的人材の育成を目標としています。
なお、学部では、原則として複数の教員による学年担当制により指導が行われますが、学生が自由に才能を伸ばせるよう全教員が指導にあたる教育研究体制をとっています。
学部1~2年では主に基本的な造形力を養うための授業科目として、人物、風景、静物、動物、植物、自由課題の各制作実習に加え、古典模写、人物素描、技法・材料研究、写生旅行の実習があります。
学部3~4年では、制作実習の自由課題を増やし、各学生が自主的に創作テーマを設定することにより、作家活動に不可欠な企画力・発想力を養成するカリキュラムとなっています。なお、3年次には幅広く日本画をとらえる機会として版画/壁画実習、奈良・京都への古美術研究旅行も行います。
さらに、制作実習と並行して日本画技法材料の習熟度に沿ったより高度な、古典模写、技法・材料研究が効果的に配置されており、4年間で日本画制作のみでなく伝統技法、材料等も含めて幅広く日本画について学ぶことのできる教育プログラムとなっています。
大学院は、3研究室からなり、各研究室とも複数の教員の指導のもと、学生それぞれの研究テーマに沿った創作研究活動を行います。また、研究室ごとに特化した教育研究プログラムによる多様な技法・材料実習や集中講義も編成されています。
修士課程では、学部で習得した知識や技術を基に、さらなる芸術性を追求するための造形力・創造力の育成、知識の習得を目的としています。なお、各研究室の在学生は、各学年4名程度です。
博士後期課程では、創作研究のみならず論文執筆に取り組むことで、より高い絵画表現の研究と専門的な知識・理論とを習得することを目的としています。それにより次代を担う表現者・指導者として活躍しうる表現能力と理論的基盤を身につけます。在学生は、全研究室で各学年3名程度です。
第1研究室: | 各自の通常制作を基に、学生自ら企画運営する実践的な展覧会実習、美術館見学実習などを通して、伝統の現代における新たな表現形態を探ります。また、実習を通して古典的表現と多様化する現代の表現・展示形態という両面について学び、国際的な視野を持った作家として活躍する基盤となることを目標とします。 |
第2研究室: | 現代の日本画素材・技法を取り巻く危機的な状況を鑑み、紙・絹・墨のほか、顔料・膠・筆など の用材・用具の研究講義や、それを基とした制作の展覧会実習などを開設しています。制作・素材研究の両面から「日本画」の研究を行い、伝統材料・技法を現在の環境と共に考察し表現する「現代日本画作家」を輩出することを目指しています。 |
第3研究室: | 日本画の基盤研究ともいえる国宝を含む古典重要作品の模写実習は、独自の貴重な実習であり、伝統技法の研究とその伝承を中心におきながらも、創作研究の可能性を広げる重要な機会となっています。また実習に伴う高いレベルでの古典作品分析は、伝統的絵画表現を探求する学生にとり必要不可欠な実践的教育プログラムともなっています。 |
-国際交流-
これまでは留学生の受け入れ、中国敦煌壁画の調査研究交流、帰国し教職についた留学生との研究者ベースでの交流、大学主催の交流展への参加などにより交流が行われてきました。日本画あるいは各国の伝統的絵画をとりまく環境が大きく変化している現在、学生の相互交流をも含めた積極的な交流を行う準備を進めています。
-留学生-
これまで中国・韓国などのアジア諸国をはじめとして、アメリカ・イギリス・オーストリアなど欧米各国からも留学生を受け入れています。ほとんどの留学生が国費による研究生として来日していますが、その後、受験を経て修士課程、博士後期課程へと進学する留学生もいます。
-卒業・修了後の進路-
卒業・修了生の多くが作家として、国内外の個展、グループ展等の開催を通じて、また公募展、コンクール等での入選、入賞などにより美術界で活躍しています。
就職状況としては卒業生の多くが教員免許を取得し、中学校・高等学校の教員として美術教育全般に広く貢献しています。
その他、文化講座や受験予備校などの講師、放送、出版、デザイン関係、ゲーム関連、美術館、博物館、福祉施設、また保存修復関連の企業に就職する卒業・修了生も見られます。
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1896(明治29)年、東京美術学校に西洋画科が設立されて以来、欧州の同時代の絵画思潮を移入摂取しつつ、日本という土壌での油画の展開が本学においても連綿と続けられてきました。
1933(昭和8)年、西洋画科は油画科と改称し、1949(昭和24)年東京藝術大学が設置されると、絵画科油画専攻となり現在に至っています。
西洋絵画における物の見方や方法論、技法、材料、またその表現から読み取れる意味等、様々な背景が徐々に理解、受容されると共に油画の教育もその実質を変えてきました。設立当初より本専攻は、国際化の一翼を担って近代化する日本文化を先導し、その気運は、第二次世界大戦後もそのまま受け継がれてきたと言えます。
従来の絵画や彫刻といったカテゴリーでは捉えられない表現が現れて久しい今日、本専攻は、そうした時代の変化に対応するべく、それまでの絵画表現を基軸とした教育方法を堅持しつつも、写真、映像等、多様なメディアまで拡張された表現に対する研究教育推進を行ってきました。
現在油画専攻は、前記二方向を包括する教育研究プログラムを実施しており、絵画全般に渡る領域を視野に入れつつ、世界に発信する日本独自の絵画芸術の研究拠点として、多様化した表現を統合する新しい絵画の概念を構築すると共に、伝統的技術から先端技術に跨がる様々な表現媒体を駆使して表現していく若い芸術家、研究者の育成を目指しています。
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学部は1・2年次の基礎課程と3・4年次の専門課程で構成されており、絵画造形全般の基礎としての素描(ドローイング)から、専門領域である油画実技まで様々なメディアの体験を通して、絵画表現と絵画から派生する幅広い表現を学びます。3年次からは希望により版画研究室に所属することができ、より専門的なカリキュラムが組まれています。
大学院においては、油画、版画、壁画、油画技法・材料、合計13の研究室が設置されており、学生の研究テーマと各研究室の専門性により各自の研究・制作に合わせて、それぞれの研究室の特質を生かした大学院教育と研究が行われています。
学部1年次は絵画造形全般の基礎としての素描(ドローイング)を年間を通してカリキュラムの中心に据えています。1年後期から2年次にかけて、本科の専門領域である油画実技を通して絵画表現を探ると同時に、学生自らの内部に潜む表現力を引き出すために、写真、ビデオなどの映像メディア、土、石材、木材、金属、合成樹脂などの素材を扱い、インスタレーションをも含めた平面・立体造形表現の多様性を探ります。また、卵テンペラと油絵具による混合技法、フレスコ、モザイク、ステンドグラスなどの壁画表現の技法、銅版、木版、リトグラフ、スクリーンプリントなどの版表現の技法など、実地に手で触れる機会が設けられます。
3・4年次は、学生個々の自主的な創作研究が中心となります。3年次には、2週間にわたる奈良・京都を中心とした古美術研究旅行が設けられ、仏像、障壁画などを含む古典芸術と出会うことで、新たな自己を発見する機会を設けます。このように、古典から現代にまで続く芸術表現の多様性に応じて、学生が自己の資質を発見し、自らの表現の内容とその表現手段を発見し深化させていく過程が、基本的な学部の4年間です。その成果として、4 年次の1年間は「卒業制作」に取り組みます。
【絵画の基礎・可能性】
学部1年次は絵画造形全般の基礎としての「ドローイング」を通年の共通課題として中心に据えながら、絵画の基礎的要素(イメージ・物質・行為・環境)を提示した基礎実技指導を行っています。また、フレスコ、モザイク、ステンドグラス、テンペラなど油画の成立以前の絵画材料と絵画技術に取り組み、絵画の発生から展開に係わる基本を学びます。後期には創作研究発表を展覧会形式で行うと同時に、企画運営の実践的教育も行っています。取手校地には、絵画材料工房、石材工房、版画工房、写真工房など多くの工房が開設されており、工房設置講座による専門性の高い実習・理論を取り入れた基礎専門教育を通して、様々なメディアと絵画表現の関わりと可能性を学ぶ環境を整えています。
学部2年次は1年次で学んだ絵画の基礎的要素の更なる可能性を探っていきます。通年、様々な選択カリキュラムが開設され、学年末には基礎課程の最後として、制作と展示を「進級展」として一般公開を行い、全教員が審査をし、合格したものが3年次からの「専門課程」へと進むことになります。
【表現の展開・独自性-卒業制作】
専門課程においては、学生個々の自主的な創作研究が中心となり、基礎課程をふまえ、自己の表現の内容とその表現手段を展開し深化させる専門実技指導を行っています。
学部3年次には、2週間にわたる奈良・京都を中心にした古美術研究旅行が設けられ、障壁画などの絵画作品、建築、彫刻、さらに庭園などの環境的なものを含む古典芸術と出会うことで、新たな自己を発見する機会が設けられます。
このように、古典から現代にまで続く芸術表現の多様性に応じて、学生が自己の資質を発見し、独自の表現とその表現手段を発見し深化させていく過程が、基本的な学部の4年間です。その成果として「卒業制作」があり、その作品制作に4年次の1年間が与えられています。
大学院修士課程において油画は、7つの研究室が設置されており、自己の表現領域において更に専門的に創作研究を行い、社会に対応する独創性豊かな人材を育成するため、各担当教員の徹底した個別指導のもと独自性を尊重した教育が行われています。各研究室では、それぞれ教員と学生の緊密なコミュニケーションが前提となる、主体的な研究・指導が行われています。
同時に、複数の研究室による共同企画や合同授業によって横断的な連携指導も行われています。また、他分野の専門領域の理解を深め、表現内容とその表現手段を、社会と対応する美術表現に結びつける方法を修得するために、学外から数多くのアーティスト、キューレーターや評論家等を招き、多角的な側面からの集中講義も開設されています。
博士後期課程においては、博士学位取得を前提とし、制作、理論双方を担当教員とそれをサポートする数名の担当教員によって、より高度で総合的複合的なグループ指導が行われます。自己の創作研究活動を社会に向けて発信し、さらには国際的美術表現を展開できる専門家育成のための指導を行っています。
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版画は、機能的な側面としての「メディア性、間接性」、素材の持つ「物質性」、そして様々な版種における「強固な形式」を持つ魅力的な表現媒体であると考えます。
版画研究室では、銅版、リトグラフ、木版、スクリーンプリントの主要4版種の実習を通じ、基礎的版画技術を修得し、各版種の特徴的な表現への理解を深めるとともに、版画が印刷媒体としての機能から出発して、様々な芸術ジャンルを包括しながら進んできた歴史的、社会的背景も踏まえた創作・研究を深めていきます。1970(昭和45)年以来、油画専攻3年次からの移行、所属を受け入れ、学部2年間の版画基礎教育を行い、学内共通工房としての役割を併せもつ本研究室は、1967(昭和42)年以来、油画、日本画、デザイン科(昭和50年まで)、芸術学科、美術教育に門戸を開放し、基礎技法、基礎技術の教育を集中講義の形態で担当してきています。それぞれのカリキュラムに従って絵画芸術教育の一翼を担いつつ、徹底して版表現に絞った教育と研究をしており、我が国の伝統文化である木版をはじめ、各版種とも堅実な基礎技法、技術の修得および素材研究を土台として、国内にとどまらず国際的にも活躍できる表現者、幅広く社会に貢献できる専門性を持った人材の養成に努めています。
版画研究室の大学院教育では、日本画、芸術学科など、他科へ開かれた多くの集中講義が裾野として行われています。銅版、リトグラフ、木版、スクリーンプリントの各版種ともカリキュラム編成は創作研究が主ですが、学部3、4年次対象の基礎実習および素材研究に参加できるようになっており、各自の研究スケジュールに自由に組み込むことができます。また、研究教育成果の公表として、研究室前に版画廊という展示スペースを設け、学生の自主的な研究発表の場としており、また積極的にグループ展、公募展、個展等、外部で研究発表を行っています。教育スタッフの研究発表については、それぞれ独自の発表のほか、毎年外部の画廊、美術館等で行っています。
我が国の版画は国際的に評価が高く、外国からの留学希望が非常に多く、これまでにも、韓国、中国、タイ、インド、パキスタンなどアジア諸国はもとより、フランス、ドイツ、オーストリア、アメリカ、カナダ、オーストラリア等の西欧諸国からも多数受け入れ、国際親善あるいは国際文化交流に大きく貢献してきています。
博士後期課程においては、博士学位取得を前提とし、制作、理論双方を担当教員とそれをサポートする数名の担当教員によってより高度で総合的複合的なグループ指導が行われます。自己の創作研究活動を社会に向けて発信し、更には国際的美術表現を展開出来る専門家育成のための指導を行っています。
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壁画研究室の設立は、1957(昭和32)年、フレスコが油画実技の授業として採用されたことに遡ります。1960(昭和35)年、油画専攻にフレスコ研究室が新設され、1962(昭和37)年、モザイク実習が採用されます。1963(昭和38)年、大学院設置にともないフレスコ研究室が設置され、翌年「版画・壁画研究室」となりました。
1969(昭和44)年、壁画部門と日本画古典模写部門が合同し「壁画研究室」として独立します。1972(昭和47)年、ステンドグラスが油画授業に採用され、翌73(昭和48)年、日本画古典模写部門が壁画研究室から分離し、壁画研究室は壁画第一研究室、壁画第二研究室の二つの研究室による油画の一講座として体制が整い、現在に至ります。
壁画研究室はフレスコ・モザイク・ステンドグラスの専門的な教育・研究を担ってきた歴史があり、それは、現在においても変わりません。建築物や住環境と一体となって表現される古典技法は、壁画の基本理念、技法・材料、表現を学ぶ上で不可欠であることから、油画1年次選択科目授業として行われており、また、多くの専門的な集中講義も開設されています。
壁画研究室の指針は、歴史的継続性を重視する一方、現代の社会に対応する新たな理論や表現を研究、模索する方向性も重視し、壁画表現における幅広い人材の育成に取り組む教育・研究活動を行っています。
壁画研究室は、歴史的継続性を重視する一方、現代の社会に対応する新たな理論や表現を研究、模索する方向性も重視し、壁画表現における幅広い人材の育成に取り組む教育・研究活動を行っています。
壁画第1研究室では、様々なアートプロジェクトを通して芸術文化の創造プロセスを研究しています。壁画というジャンルは、古代より人間の生活、環境、社会と密接な関係の上に成り立ってきた芸術であり、人間の創造活動そのものを総合的に捉えなければならない側面を持っています。そうした観点において、社会的にリアライズするまでのプロセス、様々なフィールドを読み解く観察力・イメージ力、表現動機を培う授業を取り入れ、現代の思想・メディア・技術とともに美術を捉え、独創性を重視しそこから生ずる様々な表現の可能性を探究しています。
壁画第2研究室は、西欧古典壁画技法(モザイク・フレスコ・ステンドグラス)の研究と技術の修得、そしてこれらの技法の応用による各自の創作活動が主体となっています。同時に、様々な環境や構築物と一体となる美術という基本概念から、前述した3つの技法にとらわれることなく、自然環境または都市や建造物との密接な関係から、素材や技法を試行し表現へ展開できるよう、専門的かつ横断的なカリキュラムが組まれています。
博士後期課程においては、博士学位取得を前提とし、制作、理論双方を担当教員とそれをサポートする数名の担当教員によってより高度で総合的複合的なグループ指導が行われます。自己の創作研究活動を社会に向けて発信し、更には国際的美術表現を展開出来る専門家育成のための指導を行っています。
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油画技法・材料研究室では、自己表現としての油画制作を主軸に据え、各学生の絵画表現の可能性を探ります。絵画を物質面から支えてきた、絵画材料、絵画技術の側面から、「油画とはどのようなものか」「油画の成立はどうであってどのように展開してきたのか」という課題にも取り組み、実技実習、講義、演習を通して理解を深めています。実地に模写作品を試みたり、また支持体、地塗り、絵具の自家製法を試み、現在油画制作を行う上での絵画材料、絵画技術の探求に携わっています。
油画技法・材料研究室は、学部1年次の油画専攻(日本画専攻、その他の学部1年次も含む)に対して「絵画技法史材料論」を開講し、絵画の基礎知識を、絵画材料学、絵画技法史の側面から取手校地にて授業を開講しています。さらに、油画専攻1年次を対象に「地塗り実習」を行い、木枠の組み立て、麻布の張り方、膠引き、地塗り(白亜地・乳濁液地)を行い、加えて木板(パネル)を支持体にした場合の地塗りの方法を実地に指導しています。
絵画構造の基本を実技・実習・理論の側面を通して、総合的に学ぶ教育体制と、個人としての自律と寛容の精神のもと、学生自身の個性を尊重した教育・研究活動を行っています。
油画技法・材料研究室は、自己表現としての油画制作はもちろんのこと、絵画材料、絵画技術の側面から、「油画とはどのようなものか」「油画の成立はどうであってどのように展開してきたのか」という課題にも取り組み、その研究成果を踏まえ実地に学生自身の自己表現としての油画制作に携わっています。また、支持体、地塗り、絵具の自家製法を試み、現在油画制作を行う上での絵画材料、絵画技術の研究にも携わっています。
例えば、西洋古典のテンペラ画および油画作品の支持体、地塗り、絵具層と順を追っての再現模写および、絵画材料、絵画技術の文献講読および模写実習を行い、イタリア前期ルネッサンスのテンペラ画の実際を考察しています。写真実習では、平面作品を主体にした自作品や人物を対象に、撮影技術、引き延ばし、現像、焼き付け技術の習得を目指しています。これらの成果をもとに、学生自身の作品のプレゼンテーションとして、写真と文章を組み合わせたレポート作成、およびその内容について教員と学生が一体となったディスカッションを重ねています。
また、東京藝術大学大学美術館に所蔵されている多数の日本を代表する明治前期油画作品の優品全作品を対象にした調査研究も長年行ってきており、支持体、地塗り、絵具層、ワニス層と、絵画の重層構造に着目し、それぞれの状態を文章と写真資料にまとめ、デジタルアーカイブ化し、データ・ベースの構築も行っています。
大学院においては、油画だけではなく、油画というジャンルを超えて、半立体、画像、インスタレーションと多様化、複合化を志向する学生も多くいますが、それらの中にも古きを温め、新しきを知る姿勢が一貫して流れているように思われます。本来の意味でのアカデミックな探求の場において、「絵画とはなにか」という問いに各学生が真摯に向き合うことのできる教育研究体制を整えています。
博士後期課程においては、博士学位取得を前提とし、制作、理論双方を担当教員とそれをサポートする数名の担当教員によってより高度で総合的複合的なグループ指導が行われます。自己の創作研究活動を社会に向けて発信し、更には国際的美術表現を展開出来る専門家育成のための指導を行っています。
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-国際交流-
絵画科油画専攻は、東京美術学校当時「西洋画科」と称していたことからもわかるように開校以来、国際的視野に立って創造研究活動してきた研究領域といえます。近年の国際交流協定校の増加に伴い、本専攻においても積極的な国際交流が行われています。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート、グリフィス大学、中国美術学院、シカゴ美術館附属美術大学など、毎年、東西問わず様々な国々との交換留学、交流展、合同授業、ワークショップ等を国内外において実施しています。
-留学生の受け入れ-
芸術教育研究の国際性と大学院教育の高度化、また、より開かれた国際交流を促進するために、留学生受け入れの基盤整備とその拡大を積極的に推進しています。これまでに韓国、中国、タイ、インド、パキスタン等のアジア諸国をはじめフランス、ドイツ、オーストリア、アメリカ、カナダ、オーストラリア等、西欧諸国からも恒常的に多数の留学生がおり、国際親善、国際文化交流に大きく貢献しています。
-学部卒業・大学院修了後の進路-
個展、公募展、社会活動等で自作品を発表し、作家活動を開始する者をはじめとして、芸術・美術・教育系の大学や小・中・高等学校の教員、また、美術系予備校、専門学校などの講師に採用される者も多くいます。近年では、ゲームや画像コンテンツ作成など企業への就職も増加しています。また、国費留学生や私費留学として海外へ留学する者も一定数認められます。
<入試>
絵画科油画専攻に在籍し、学業および実技が続けられる資質を選考するために、以下の内容の入学試験を課しています。
・ 学部入試
○ 学科試験
学科試験は「大学入学共通テスト」を採用しています。絵画科油画専攻の受験者には、実技能力だけではなく、自然科学、人文科学、語学といった幅広い分野の知識が要求されるので、3教科3科目又は4科目を受験してください。
○ 実技(1次)「素描」
この実技試験は、出題された内容を「素描」によって表現するものです。
この試験では、出題を(1)どのように理解したか、(2)どのように観察したか、(3)どのように表現できたか、以上の3点を主に絵画表現の基礎的な描写力を評価します。
○ 実技(2次)「絵画」
この試験は、受験生の資質と作品の独創性を問うもので、出題された内容を「素描・油彩」によって表現するものです。
「素描」では、出題された内容にしたがって、受験生の(1)構想力、(2)構成力、以上の2点を主に素描における個人の創造力を評価します。
「油彩」では、上記の内容に加えて、形態と色彩による総合的な造形表現能力を評価します。
以上、学科・実技のすべてを加えて、総合的に判断し、受験生の中から適性者を選抜します。
・ 大学院入試
修士課程では、独創性の高い絵画表現の創作研究を行う能力を審査するため、作品とドローイングファイル、ポートフォリオの提出が求められます。さらに、絵画における専門的な表現力や知識、研究計画について審査するため、実技試験と面接試験が課せられます。
博士後期課程では、独創性の極めて高い絵画表現が求められ、課程修了時に作品・論文による博士審査があるため、その創作研究を行なう能力を審査します。そのため、作品とポートフォリオの提出のほか、論文作成の能力を審査するため、小論文の提出と口述試問、および語学(英語)能力審査が課せられます。
※詳しくは募集要項をご覧ください。