日時:平成28年4月5日(火) 11:00~11:35 場所:奏楽堂
式次第
4月5日(火)、桜が咲き誇るなか、11時から奏楽堂にて平成28年度入学式が挙行されました。音楽学部吉川さとみ准教授と野村正也講師の二重奏で「春の海(宮城道雄作曲)」が演奏され、お祝いの雰囲気の中で式は幕を開けました。今年の新入生は、学部478名、大学院修士課程434名、大学院博士後期課程62名、大学別科21名の総勢995名。
澤新学長がヨハン・セバスチャン・バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ ト短調から第1楽章、アダージョを奏でると、会場は先ほどと一転、静穏な雰囲気に包まれました。
祝辞では、アダージョの語源のアジオが「くつろぎ」や「やすらぎ」を表すこと、芸術には時代や地域を超越して多くの人々に共感を与えるパワーがあることを述べ、無限の可能性を秘めて入学してきた新入学生に対して、ここ東京藝術大学で、自分自身のアイデンティティを作り上げる基礎力を身につけてもらいたいことや、そのために教職員が一丸となって環境を整えたいと思っていることを伝え、新入学生への期待を込めたエールを送りました。
また、閉式は音楽学部 萩岡松韻教授、吉川さとみ准教授、盧慶順准教授、伊東ちひろ講師、野村正也講師による「松竹梅(三橋勾当作曲)」の息の合った演奏で、未来への可能性をもつ初々しい新入生たちの入学を華やかに祝福しました。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
ただいま、私が演奏致しましたのは、ヨハン・セバスチャン・バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ ト短調から第1楽章、アダージョです。
入学のお祝いの演奏にしては、かなりしんみりとした音楽と感じられたかもしれませんね。ここにいらっしゃる皆さんの半数以上は、音楽を専門としない方たちですが、アダージョという言葉は、聞いたことがあると思います。
多くの音楽用語辞典などでは、アダージョは「ゆるやかに、とか、遅く」中には「アンダンテとラルゴの中間の遅さ」などと、演奏の速度を示す用語のように思われがちですが、本来のイタリア語のアダージョとは「くつろぎ」とか「やすらぎ」を表す「アジオ」という言葉が語源となっています。
私の演奏が、皆さんに「くつろぎ」や「やすらぎ」をもたらしたどうかは分かりませんが、大作曲家が残した名曲や、美術の名画、あるいは名作と呼ばれる映像作品などには、時代や地域を超越して多くの人々に共感を与える大きなパワーがあるように感じます。
現代社会に生きる私たちは、科学のめざましい進歩・発達で、多くの便利さを手に入れましたが、同時に、ストレスによって、心身に大きな問題を抱える人々も増えています。
地球が誕生したのが約46億年前、そこに原始生物が生まれ、気の遠くなるほどの時間をかけて進化を果たし、人類が誕生したのが約700万年前、そこからもさらに人類が進化を続け、古代エジプト文明が現れたのが、今から5,000年ほど前といわれています。
一方、エジソンが、電球や発電機を発明したのは1880年頃、いまからわずか130年あまり前です。恐らく、電灯や電気が現在のように普及するまでは、人類は、日が昇れば起きて生活し、日が沈めば休む・・・というような、大自然のリズムに合わせた生活が普通だったことでしょう。現代人が抱える様々なストレスは、人類の長い進化の歴史からすると、あまりにも急激な変化に進化のスピードが追いつけず、本来の大自然、あるいは宇宙のリズムと身体が同調できなくなっている事に大きな原因があるように感じます。
クラシックの名曲や、芸術作品には、その大自然のリズムに人間の身体を同調させ、心身の不調を癒し、元気づける、不思議な力があると私は信じています。
東京藝術大学では、無限の可能性を秘めて入学してきた皆さんに、一生かけて自分自身のアイデンティティを作り上げる基礎力を身につけて頂き、芸術の持てる力で、世の中に貢献してもらえるような環境を、教職員一同、整えたいと願っています。
皆さんのこれからの頑張りを期待しています。本日は、本当におめでとうございました。