10月18日(火)、本学と三菱地所株式会社による「藝大アーツイン丸の内2016」が開幕しました。本イベントは、次代を担う新鋭のアーティストを支援するとともに、東京・丸の内を訪れた方々に気軽に芸術を楽しんでいただき、日本の中心的なオフィス街である東京・丸の内から文化・芸術を発信する「芸術+都市」の融合を目指したイベントです。
初日オープニングは、本学十亀正司先生と管楽学生によるファンファーレで開幕しました。そして澤和樹学長のヴァイオリン(ピアノ伴奏 林そよか助手)による「美しく青きドナウ」が演奏されると、優雅なワルツで会場はしっとりとした雰囲気に包まれました。
「藝大アーツイン丸の内2016」は23日(日)まで開催しています。毎日藝大から様々な催しを提供いたします。夕方以降の催しもございます。学校、会社帰りなど、皆様のご来場をお待ちしています。
三菱地所賞とは 若手芸術家を支援するため、東京藝術大学を優秀な成績で卒業したアーティストの中から、丸の内より発信する文化・芸術の担い手としてふさわしいと認められる者を選考し授与する賞 |
澤学長から
今回の催しのテーマカラー”群青”にちなんで、ウィンナワルツの名曲、ヨハン・シュトラウス2世作曲の「美しき青きドナウ川」を選曲しました。
自然と人間の調和には芸術のもつ無限の力が必要であり、1%フォー・アーツ*のような取り組みは興味深いと思っています。文明が発達することは素晴らしく、いろいろな便利さを手に入れられますが、自然から離れることは、人間にとってストレスにもなっていくため、芸術の必要性を感じます。
これからも三菱地所さんと協力して藝大アーツイン丸の内を続けていけたらと思います。
*1%フォー・アーツ:公共建築の建設費の1%をアートのために使う取り組みで、欧米各国で文化振興の推進力となっており、アジアでもその広がりをみせている
杉山社長から
素晴らしい演奏が、まさに青空の今日ともぴったりだったと思います。
さまざまな街を訪れると、素敵な街がたくさんあり、そこに住み、働き、憩う人間がいて歴史や文化があると感じます。丸の内も自然と人と調和した魅力あふれる、人にやさしい街にしていきたいと思っています。
11年後に高さ399mのビルの建設を計画していますが、一方で、かねてより丸の内仲通に彫刻を展示するなど、「丸の内ストリートギャラリー」にも取り組んでいます。
今回でちょうど10年目を迎える藝大アーツイン丸の内ですが、藝大さんと協力して皆さんが気軽にアーツに触れる機会を今後も続け、皆さんがほっとする、楽しいと思ってもらえる街づくりをしていけたらと思います。
最後に、お二方から、三菱地所賞を受賞された若いアーティストたちの今後の更なる活躍を願う、とオープニングトークが締めくくられました。
環境のイノベーション
―「バベルの塔」巨大プロジェクションと生演奏のコラボレーション
千住明特任教授による指揮でモンテヴェルディ”「倫理的・宗教的な森」よりグローリア”の演奏と歌が響き渡るマルキューブに、ピーテル・ブリューゲルの『バベルの塔』をモチーフにした映像がプロジェクションされました。東京藝術大学COI拠点ではオランダ芸術科学保存協会NICASと連携し、最先端技術と伝統技法を活用してブリューゲル作「バベルの塔」の複製制作プロジェクトに取り組んでおり、来春日本で開催される「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展(朝日新聞社主催)」で展示する予定です。
伝統のイノベーション
第一部は邦楽科学生による演奏(邦楽コンサート)、第二部では革新する伝統~ディスカバリー Nippon~と題し、デザイナー舘鼻則孝氏、三田村有純教授、伊東順二特任教授、邦楽科学生による対談がおこなわれました。
それぞれに活躍のフィールドは異なりますが、海外からみた日本文化についての見え方、あり方についてなど、表現者ならではの対談が繰り広げられました。
デザインのイノベーション
箭内道彦准教授×コーディネーター千住明特任教授×学生によるディスカッションが行われました。別々のフィールドで現在もなお活躍されているお二人が、ご自身の学生時代を振り返りながら、楽しい雰囲気でディスカッションは始まりました。
「いまでもドキドキしますか?」「冴えない奴はどうやったら冴えますか?」「学生時代に大きく間違ったこと、効率の悪かった選択は何ですか?」など現役藝大生からの問いかけに、自身の経験エピソードを交えた軽快な回答や失敗談などを語りながら、表現することは何か、デザインは目に見えるものだけではない、生き方そのものを含めたクリエイティブ思考についてのディスカッションがなされました。
物事をチャーミングにとらえたりユーモアな視点でみることで、人の気持ちを動かしたり一つにすることがある、クリエイティブな藝大はいま社会から必要とされている、と、パジャマ姿の箭内准教授が大まじめな顔で総括しました。
カフェ・ディスカッション
須賀洋介シェフ×宮廻正明教授×千住明特任教授×青柳正規特任教授
須賀シェフから、フランス料理をやっていることへの疑問がありましたが、いまはフランス料理を日本で、日本の食材で、日本人だからできることがあると思っています、と、これまでの各国でのシェフ経験の後の日本で、いま感じていることが語られました。
また、料理人はアーティストなのか職人なのかという問いに、各人が日本画家、作曲家、美術史研究者、それぞれの分野の見地からコメント。料理は人間の五感全てをつかって堪能できるアートだ、前菜からデザートまでメインをどこに持ってくるかを考えると時間芸術である、お皿の選択から内装、食事する人々や雰囲気のトータルアートであるなど、ユニークなディスカッションとなりました。
GEIDAIカフェではブルーをテーマに須賀洋介シェフ、宮廻正明教授、千住明特任教授がコラボレーションした期間限定メニューの3品(カルボナーラ、南瓜のスープ、柿とオレンジのデザート)を提供しています。この機会にぜひお楽しみください。
街づくりのイノベーション
隅研吾客員教授×コーディネーター伊東順二特任教授×学生によるディスカッション
会場の立地にちなみ、まずはここ丸の内の土地を、明治維新後に三菱が政府から払い受けたというエピソードからディスカッションはスタートしました。
当時、お雇い外国人として英国から来日したジョサイア・コンドルが、丸の内で最初のオフィスビル三菱一号館を設計し丸の内の開発が始まったこと、後にこの建物が2010年に復元された際に、プロジェクトに関わっていたのが、コンドルがかつて工部大学校(現・東京大学工学部建築学科)で教えた故鈴木博之東京大学名誉教授であり、鈴木先生は東京駅丸の内駅舎の復原プロジェクトにも深く関わっているなど、近代建築の歴史をたどりながら、丸の内のオフィスビル建築のはじまりについて紐解かれました。
また、三菱地所設計と一緒に手がけた、歌舞伎座の建替えについて、第四期歌舞伎座のデザインを踏襲し、皆に親しまれてきた歌舞伎座を、演者さんらの劇場への深い愛情を伺いながら、一緒に造っていくことを目指したのですが、完成までには並々ならぬ様々な苦労があったことが語られました。
構造では、柱のない大きな劇場空間の上に高層ビルを建てるため、メガトラス*で支える手法が用いられたこと、災害や地震に備え、制振・耐震のためオイルダンパーを設置するなど、現代の建築技術についての解説もありました。また、内装について、快適に観覧できるように客席を少し大きくしたこと、全ての席に音がよく届くよう天井の反射版の角度にこだわっていること、スッポンが全ての席から見えるように、など、伝統を重んじながら、設計から細部に至るまで、様々なプロフェッショナルによる工夫が随所に盛り込まれており、末永く皆さまに親しまれる歌舞伎座になっているとのお話でした。
*トラス構造:東京タワーや東京ゲートブリッジなど鉄塔や鉄橋などで多く使われる鉄骨などを三角形に組み合わせた構造形式で、力を分散し剛性に優れている。
最後に、現役藝大生との質疑応答があり、ディスカッションは終了しました。
– Q.素材を活かした建築で有名ですが、リノベーションなどを行う際に、素材についてどのようにお考えですか?
– A. 古い素材があれば、そこを拠り所にすることができますが、自ら新たにつくり出す時には、何をきっかけにしようかと考えます。富山市ガラス美術館では、立山連峰にインスパイアされました。また、大きな空間の中でも、木を木であると感じることができるにはどうしたら良いかと考えました、結果、県産材の羽板の節目がとても活かされていると思います。
GEIDAI スカウティング 藝大アーツイン丸の内賞授与式
藝大アーツイン丸の内2016「藝大アーツイン丸の内賞(GAM賞)」受賞者一覧
(*学部等は2016/10/20現在のものです)
学部等 | 専攻 | 受賞者氏名 | 作品名 |
美術学部2年 | 彫刻 | 中澤瑞季 | good dreams |
美術研究科修士2年 | デザイン | 千葉紘香 | Notate with Nerve PartⅡ |
美術学部2年 | 工芸 | 小林力 | すやすやぞうさん |
美術学部4年 | 工芸・彫金 | 岩上満里奈 | 銀世界 |
美術学部4年 | デザイン | 藪本晶子 | 旅茶 TABI-CHARM |
美術学部2年 | 先端 | イザンベール真悟 | 永久脱毛 |
美術学部2年 | デザイン | 木下裕司 | namina |
美術学部4年 | 絵画・油画 | 鰹とニメイ | パラソルの上 飛び込み台の下 |
美術学部4年 | デザイン | 槇野結 | 蔵面 蘇利古・安摩 |
美術研究科博士3年 | 油画 | しばたみづき | 仕組み7“絵に描いたつぼ” |
スポーツとアーツのイノベーション
日比野克彦美術学部長×松下功副学長×松下計教授×学生によるディスカッション
日比野美術学部長から、10月21日(金)に行われた『数寄フェス~不忍池ファイヤーアート和火・茶火』についてのエピソードからディスカッションはスタートしました。
―文化芸術拠点として上野の魅力を発信していくため上野「文化の杜」というものが結成され、その活動の一環として、上野公園一帯で『TOKYO数寄フェス』というアーツイベントを開催することになり、火をつかったインスタレーションを企画したのですが、皆さんご存じの通り、不忍池は上野動物園の隣。大きな音や光に小動物が怯えてしまうので… と上野動物園の方からいろいろとご注意をうけ、慎重にテストをおこなったり、広さの問題から(皆さんが想像するような)花火の高さに上げることができず、“ファイヤー”と呼ぶことにしました。
続いて松下(功)副学長から、ちょうど同じ頃、数寄フェスの催しとして、国立西洋美術館で本学の諏訪内晶子客員教授、馬渕明子西洋美術館長と共に『美を語る』をテーマに対談と演奏会を開いていたと、まさにホットなトピックスが披露されました。
そして、松下(功)副学長が松下(計)教授とは兄弟ではないのです、と会場の空気を和らげたところで、松下(計)教授が選考委員として関わった、世間を大きく騒がせたエンブレム後の、新エンブレムに関するエピソードが語られました。
五輪が話題に上ったところで、松下(功)副学長の進行で、スライドショーを見ながら近年開催の大会の歴史を振り返りました。
古代ギリシア彫刻が示すように肉体美は美の原点ともいえ、体を鍛えた肉体派が集い競ったのがオリンピア競技会であり、古代オリンピックと呼ばれているなど、このイノベーショントークのテーマである「スポーツとアーツのイノベーション」の核心へと迫っていきました。
2012年ロンドン大会ではカルチュラル・オリンピアードを行ったことで、スポーツだけではなく文化の祭典でもあることがはっきり示され、時代に沿って考え方も変化していることなど、東京に向けての意気込みや、芸術文化についての積極的な意見交換が行われました。
現役藝大生からの質問コーナーでは、「友人が美術に興味がないのだが、どうしたら良いか」という美術の学生からの問いに、美術が嫌いなのではなく、何かきっかけとなる出来事やトラウマがあったのでは?まずは友人の話をよく聞いてみてはどうか、おしゃれが好きなら美しくすることも嫌いではないはず、友人の美術的な何かを誉めてみてはいかがでしょう、美術の良さを理解してもらえるような、簡単な解説やあらましをワンセンテンスで伝えてはどうか、など各先生からとても親身になった丁寧なアドバイスが行われました。
また、音楽の学生からの、スポーツとアーツというと相反するもののようなとらえ方になりがちだがどのように融合させたら良いか、との問いには、これは単にものの呼び方であって、考え方についての壁は自ら取り払えばいい、例えば表示が気になるのであれば「スポーツアーツ」としたらよい、つながれば違和感はない、などアーティストならではのクリエイティブな回答がなされました。
最後にテーマや活動についての問いに、各人から現在進行形のお話があり、イノベーショントークは終了しました。
日比野 美術学部長
TURNという、異なる背景を持った人々が関わり合い多様な「個」との出会い方やつながり方など、皆が見過ごしそうな価値をつまびらかに拾い上げ、アーツの能力や魅力はもっともっとあると伝えていくプロジェクトを行っています。
松下(功)副学長
祈ることや信じること、愛することで、いろいろな夢をはぐくみたいと思っています。
スポーツと芸術と科学の融合からのプロジェクトとして、アスリートの動きをAI技術で美しい音に変換するなどの試みを行っています。
松下(計)教授
同業者などの評価は気になりますが、恐れず、他とつながっていくことで、新たな発見があります。見える化はもちろん、最近はつながる・ファーストを心がけています。
上野公園で開催された『TOKYO数寄フェス』